豊作の切なる願い 能登のあえのこと
石川県・能登半島で受け継がれる農耕神事の「あえのこと」は、
たくさんのお膳を用意して田の神様を家にお迎えする農耕神事です。
農耕と祈り、そして食の関係がとてもよく分かる神事です。
「あえのこと」は、迎えと送りの年二回行われます。
「迎え」は稲刈りが終わった後の12月に。
田んぼの守り神である田の神様を各家にお招きし、一冬を家で過ごしてもらいます。
「送り」は2月。春が近づき、再び田の神様を田へ送り出すためです。
「迎えのあえのこと」では、家の主人が正装して田んぼまで田の神様を迎えに行き、鍬に神様を鍬に宿し、家までお連れします。
あたかもその場に神様がいらっしゃるように話しかけながら、家に入っていただき、囲炉裏とたたかい風呂で暖をとっていただき、たくさんの御馳走を用意して感謝をお伝えします。
用意された御膳には栗の木の箸、山盛りご飯、納豆汁、煮しめ、ブリの刺身、なます、尾頭付きのハチメ、おはぎ、甘酒といった御馳走が並びます。
料理にはさまざまな願いが込められています。
納豆汁は「粘り強く働く」。
尾頭付きに使われるハチメ(メバル)は口が大きいことから「収穫が増えるように」。箸に栗の木を使うのは「実がなる」が転じて「豊作になるように」。
一本大根と二股大根は「子孫繁栄」。
また「虫」を連想させる蒸した料理や、
「田が焼ける」を連想する焼いた料理は神様へのお供えには用いません。
飢饉が多かった土地柄、料理のすべてに豊作への切実な願いが込められています。
神事のあとは、一家全員で田の神様に供えたものとほぼ同じ料理を囲み、
ご馳走をいただく直会をします。